第13回総会(平成24年4月24日開催)講演摘録

「京都産業の新たな発展に向けて」

講師:白須正氏 (京都市産業観光局 局長)

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  • らくなん進都の振興にとって企業立地が重要であり、産業観光局においても立地推進担当部長、課長ポストを新設するなど、支援体制強化に取り組んで行く。
  • 京都はものづくり都市といわれており、観光や伝統産業に特色があるが、特に伝統産業を長いスパンで見ると出荷額、従業者数とも大きく減少し、苦戦している。
  • 特に生活様式の変化により、西陣織、友禅染などの繊維産業が厳しい状況にあり、京都の産業の大きな課題となっている。
  • しかし、京都には上場企業が61社あり、これは全国の中でも多い。また、このうち売上高1千億円以上の会社の本社が14箇所あり、このような面から京都はものづくり都市といえるが、実態としては市内でものづくりは行われず、本社機能のみを置いているケースが多い。
  • 一方で、観光客数は伸びている。これは桝本市長時代に観光客数5,000万人構想を打ち出し、これに向かって努力してきたことに加え、社会経済情勢の変化の中で京都で観光ということが見直されてきていることが背景にある。
  • このように産業全体を見た場合、ものづくり産業は低迷し、サービス産業は進展してきているが、これは全国的な傾向と言える。
  • 京都はこれからも、ものづくり産業を中心として考えていく一方で、サービス産業も進展していくことになると思われる。
  • こういった状況を踏まえ、従来、京都市では経営相談、技術支援、融資支援などの施策を中心に中小企業の支援に力点をおいて産業政策を進めてきたが、大きな社会構造の変化の中で、新たな産業支援への取組が大きな課題になってきている。
  • 一方、国でも平成8年に科学技術基本計画が策定され、産学連携で新しい成長分野や産業を振興していくという大きな流れが示された。
  • 京都市でもベンチャー企業目利き委員会の設置や新事業創出の支援を進め、平成14年に大きなステップとして京都市スーパーテクノシティ構想を策定した。
  • 同構想の主な取組として、一つ目は、創業・新事業の創出、すなわちベンチャー企業の育成と既存事業の新分野への事業展開、いわゆる第二創業の積極的支援。二つ目は、バイオ、ナノ、IT、あるいは環境といった新規成長分野の支援。三つ目は立地環境の整備ということで桂イノベーションパークの整備である。
  • これらの柱となるのが産学連携である。京都市の場合、大学の研究シーズと企業の技術力を活かした新しい分野の産業振興を本格的に取り組んできた。
  • 具体的には一つ目が、新しいベンチャー企業の育成ということで、平成9年にベンチャー企業目利き委員会を立ち上げ、平成14年にはバリュークリエーション事業、第二創業に対する支援をしてきた。
  • 二つ目が新規成長分野の産業振興ということで、平成14年にバイオシティ構想を策定し、大学の研究シーズを活かした施策を展開した。代表的なものがクリエイション・コア京都御車である。これは独立行政法人中小企業基盤整備機構によるインキュベーション施設で、京都市はここにコーディネーターやマネージャーを派遣するなどの支援を行っている。
  • 三つ目は、バイオ計測センターである。これは産学公が共同申請してJSTに採択された、京都の得意分野である計測分析の技術を活かした施設で、様々なシンポジウム等も行っている。
  • 四つ目は、京都大学の中に産学連携による新たな事業創出ということで京都大学先端医療機器開発臨床研究センターが設置された。ここでは京都高度技術研究所も一体となって事業化に向けた取組を進めている。また、産学公連携の下、ナノテクノロジーを核に環境分野に絞り込んだ知的クラスター創成事業も進めている。
  • 次に立地環境の整備施策を紹介する。
  • ひとつは、桂イノベーションパークである。ここでは京都大学の桂キャンパス横に産学連携の機関を誘致するということで、まずJSTイノベーションプラザ京都が設置され、研究や様々なプロジェクトを進めてきたが、事業仕分けの対象になり、今年の3月末で閉鎖となった。ただし、現在は京都大学平尾先生を中心として、最先端光加工プロジェクトが進められており、この施設の今後の活用が課題である。
  • 他に京大桂ベンチャープラザ北館、南館があり、いくつかの民間の本社・研究開発施設も立地している。
  • また、都市型新産業創造・育成拠点として民間主導による京都リサーチパークがある。ここは京都市の当時の工業技術センター、京都府の中小企業技術センター、京都高度技術研究所でスタートしたが、その後集積が進み、京都市も工業技術センターと繊維技術センターを統合し、また知恵産業融合センターも併せ、京都市産業技術研究所として新たにスタートしている。
  • 次に、これから力を入れていきたいのがらくなん進都である。現在、企業誘致の支援体制強化を進めているが、京都の有望企業が時代の変化によって新たに企業再生を図らなければならない時に、用地確保が難しい中で京都市としてどういう対応ができるかということについて考えていきたい。
  • まず、中小企業が本社を含めた工場の立替等をする場合、今までは工場、研究所は全て企業立地促進制度の対象であったのに対し、本社については一部の地域以外は支援の対象ではなかったが、今回本社の新増設、建替えも全ての地域で支援対象とした。
  • それと企業が立地を考える場合、都市計画制限などの相談を産業観光局の企業立地の窓口でワンストップで対応する仕組みとした。
  • 工業立地法でも、例えば今の緑被率は20%であるが、10%に緩和できる条例を検討していきたい。
  • 企業を立地する場合、都市計画制限や道路、公共交通など様々な問題があるが、まず産業観光局が窓口となってワンストップで対応することを考えている。
  • このようなことも踏まえてらくなん進都を考えると、集積が大きく進展するためには、拠点になる核が必要である。
  • これについては、今回京都大学を中心に京都市と京都高度技術研究所が連携し、技術の橋渡し拠点整備事業が経済産業省に採択され、整備が進められる。
  • これは大学の研究シーズを地元の産業界の事業化に結びつけていくもので、研究分野としてはグリーンイノベーション、ライフイノベーションがあげられ、京都大学の3つの研究室でスタートされる。
  • ただし、これは状況に応じて変えられ、他の大学も利用できる。また、こういった研究だけではなく、貸しラボもあるのでこれも活用していきたい。
  • 3つの研究室のテーマは「多孔性配位高分子の応用技術」、「次世代材料プロセッシング技術」、「抗ストレス性タンパク質『チオレドキシン』(TRX)」であり、こういった最先端の研究をどのように事業化に結びつけていくかということを念頭に、らくなん進都全体の産業活性化の拠点として、中小企業の方々からの色々な相談に対応していきたい。
  • この施設は来年の11月に開所予定であるが、京都のものづくりの施設として使いやすいものにするということだけではなく、大学の叡智も結集するところであるので、京都の技術を活かした高付加価値の高機能性化学品を世界に向けて輸出するような拠点としていきたい。